携帯による思いつき

　――このコはまだコドモよ――

　不意に鼻先に漂った、甘い香りは静かに警告する。それはまだ咲き誇る前の蕾を花盗人から護る棘であり、媚薬にも似た誘惑。

　蕾のままでも欲しい花。花盗人はだからこそ、その手を伸ばして指先に見えない棘を刺し、赤い雫を涙のように零す。禁忌の蕾はその雫を浴び、なおさらその香りを強くする。

　――許してください――

　今宵、花盗人は許しを乞う言葉と引き換えに、甘き香りの蕾を手折った。時が経って蕾は咲き誇る日を迎えるだろう。花盗人によって作られた、彼女のためだけの庭で。ただ、ひっそりと……。