時に前向き
時に後ろ向き
そんな日々の繰り返し
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身体が、心がざわめくのだ。そのくせ、頭だけは冷静で、相手の言葉、態度にどんな反応をすれば自分にとってベストなのかだけは何となく理解ってた。
最初に子どもっぽいフリをしたのは、そうすれば誰かが護ってくれるって理解ったから。それがいつの間にか、当たり前になって自分でも子どもっぽいフリをしてるのか、それともそれが素なのか、判断できなくなった。
「アタシ、アンタのことキライだから。あの男(ひと)の子どもだから仕方なく面倒看てるのよ」
今も憶えてる、あの女(ひと)からの言葉と痛み。
あの女は男に愛されたくて、彼との愛の証である子どもが欲しかったあの女。しかし、男は前の結婚生活の果てに自らの生殖能力を無くしていた。最初は女もそれでいいと思ってた。しかし、男の正式な妻となる望みが叶った日から、女の望みは増えていった。男は若い妻の望みを叶えることに腐心した。しかし、「子どもが欲しい」という一番の望みを叶えることは出来なかった。だからこそ、男は前の妻の元にいた、幼い末娘を引き取った。名目上の理由は「養育費の節約」といささか現実めいてはいたが、実際は若い妻の望みを形こそ違え、叶えるためだった。
「若い妻は子どもが好きだし、自分の血をひいた子だから可愛がってくれるだろう」などと本気で男は思っていたらしい。浅はかだ。
結果として、女は引き取られた末娘、つまりは私を愛することは出来なかった。むしろ、男の前妻への憎しみをぶつけた、一般的な表現をすれば虐待した。
今は亡き母や姉たちはこの話をする際、女をまるで稀代の悪党のごとく詰ったものだ。そして、幼い私もそれが事実なのだと思っていた……しかし、今になって私は少しだけ、本当に少しだけ、あの女の気持ちが分かるような気がするのだ。
「……×××ちゃん? 」
急に黙り込んだ私を心配して、彼が頬に触れてくる。ついさっき、私を大事にしてくれると、護ってくれると口にした人。幼い私が私であるために作り出した、彼女をちゃんと認めてくれた人。私が女の視点で大切だって、一緒にいたいって、好きだって初めて思った人。
頭ではここで頷くのが、「はい」って返事をするのがベストだって理解ってる。だけど、身体が、心がそれを拒む。
大好きな人のお嫁さんになるのは子どもの頃からの夢だった。だけど、その夢が叶ってしまった私は次に大好きな人に何を望むんだろう。多分、多分……。あの女と男の関係は私のことが原因で破綻したらしい。いや、男が女の望みを次々と叶えることにうんざりしたのだとも聞いた。
私もあの女のように目の前の大好きな人に多くを望み、うんざりさせ、棄てられるかもしれない。
「×××ちゃん!?」
あの人の声が段々遠ざかりながら聞こえる。ああ、私は逃げてるんだと今さら自覚する。望みが叶うのが、幸せになるのが怖い。自分の欲があの女のように際限なく深くなっていくのが怖い。そう言ったら、あの人はきっといつもの口調で微笑って、こう言ってくれるだろうな。
「んなワケねーだろ……ってか、×××ちゃんに俺どんだけ甲斐性ねーと思われてんの。だいたい、幸せになっても何も怖くねーって」
幸せになれるのは嬉しい。だけど怖い。だから逃げる……その理由を問われても、私自身、それが見つからない。
ふと見上げた夕暮れの空には下弦の月がうっすら光ってた。それはまるで……愚かな私を嘲笑う、誰かの口許のようだった。
最初に子どもっぽいフリをしたのは、そうすれば誰かが護ってくれるって理解ったから。それがいつの間にか、当たり前になって自分でも子どもっぽいフリをしてるのか、それともそれが素なのか、判断できなくなった。
「アタシ、アンタのことキライだから。あの男(ひと)の子どもだから仕方なく面倒看てるのよ」
今も憶えてる、あの女(ひと)からの言葉と痛み。
あの女は男に愛されたくて、彼との愛の証である子どもが欲しかったあの女。しかし、男は前の結婚生活の果てに自らの生殖能力を無くしていた。最初は女もそれでいいと思ってた。しかし、男の正式な妻となる望みが叶った日から、女の望みは増えていった。男は若い妻の望みを叶えることに腐心した。しかし、「子どもが欲しい」という一番の望みを叶えることは出来なかった。だからこそ、男は前の妻の元にいた、幼い末娘を引き取った。名目上の理由は「養育費の節約」といささか現実めいてはいたが、実際は若い妻の望みを形こそ違え、叶えるためだった。
「若い妻は子どもが好きだし、自分の血をひいた子だから可愛がってくれるだろう」などと本気で男は思っていたらしい。浅はかだ。
結果として、女は引き取られた末娘、つまりは私を愛することは出来なかった。むしろ、男の前妻への憎しみをぶつけた、一般的な表現をすれば虐待した。
今は亡き母や姉たちはこの話をする際、女をまるで稀代の悪党のごとく詰ったものだ。そして、幼い私もそれが事実なのだと思っていた……しかし、今になって私は少しだけ、本当に少しだけ、あの女の気持ちが分かるような気がするのだ。
「……×××ちゃん? 」
急に黙り込んだ私を心配して、彼が頬に触れてくる。ついさっき、私を大事にしてくれると、護ってくれると口にした人。幼い私が私であるために作り出した、彼女をちゃんと認めてくれた人。私が女の視点で大切だって、一緒にいたいって、好きだって初めて思った人。
頭ではここで頷くのが、「はい」って返事をするのがベストだって理解ってる。だけど、身体が、心がそれを拒む。
大好きな人のお嫁さんになるのは子どもの頃からの夢だった。だけど、その夢が叶ってしまった私は次に大好きな人に何を望むんだろう。多分、多分……。あの女と男の関係は私のことが原因で破綻したらしい。いや、男が女の望みを次々と叶えることにうんざりしたのだとも聞いた。
私もあの女のように目の前の大好きな人に多くを望み、うんざりさせ、棄てられるかもしれない。
「×××ちゃん!?」
あの人の声が段々遠ざかりながら聞こえる。ああ、私は逃げてるんだと今さら自覚する。望みが叶うのが、幸せになるのが怖い。自分の欲があの女のように際限なく深くなっていくのが怖い。そう言ったら、あの人はきっといつもの口調で微笑って、こう言ってくれるだろうな。
「んなワケねーだろ……ってか、×××ちゃんに俺どんだけ甲斐性ねーと思われてんの。だいたい、幸せになっても何も怖くねーって」
幸せになれるのは嬉しい。だけど怖い。だから逃げる……その理由を問われても、私自身、それが見つからない。
ふと見上げた夕暮れの空には下弦の月がうっすら光ってた。それはまるで……愚かな私を嘲笑う、誰かの口許のようだった。
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